耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

美寧は何も知らない。年の割に純真無垢だ。
男女の間で行われることを、彼女の耳に入れるような輩がいない場所できっと育ったのだろう。
それでも年頃の同級生などの集まる学校生活などでは、その手の話を避けて通る方が難しい。

(奥手な友人しかいないかったのか…もしくは、よほどの箱入りか……)

彼女の安寧を守るために、敢えて訊かないようにしていることは数多くある。
一か月半も生活を共にしながら、怜は未だ以前の彼女をよく知らない。
知っているのは彼女の名前が“杵嶋(きじま)美寧”ということ。年齢。そして亡くなった祖父をとても慕っているということ。
それだけだ。

(お互い様―――だな。)

過去を語っていないのは自分も同じだというのに。

美寧の過去も含めて、全てを自分のものにしたいと思ってしまう。
近くに寄れば触れたくなるし、触れればもっと欲しくなる。

“恋人”という肩書を得て、美寧に触れられるようになってからというもの、怜は自分の中にこんな風に衝動的な熱情があったことに気付かされた。
そのせいで数日前も美寧に痛い思いをさせてしまったことは、今も反省中だ。

(悲しませたり苦しませたりしたいわけじゃない……)

大事にしたい。笑顔を見たい。

けれどそれと同じくらい、自分の腕の中で彼女を啼かせたい。

そんな青臭い二律背反に、この歳になって揺らぐとは思っても見なかった。


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