耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
こんなに景色が良いのに他に誰もいないのは、時間帯とこの暑さのせいだろう。
他にもお墓参りに来ていた人は何組かいたけれど、用が済んだ後は早く涼しい場所へ行って美味しい物でも食べようと思うのは当たり前の人間心理で、それくらいこの時期の暑さは驚異的なのだ。

「どうぞ」

差し出されたのはグラス。

「ありがとう」

受け取ったグラスの冷たさが心地良い。
水筒から注がれた麦茶をゴクゴクと一気に飲み干した。

「暑い中こんなところまで連れてきてしまって申し訳ありません。具合が悪くなったりしていませんか?」

「うん、大丈夫」

美寧が首を縦に振ると、怜はホッとした顔を見せた。


「ここ、良いところだね」

額に滲んだ汗を、山からの風が冷やしていく。

「遠くの街までよく見えるし、風が気持ち良くて空気が美味しいね」

「ミネは高いところが好きですか?」

「うん好き。あと緑の多いところも!おじいさまのおうちもそんなところだったんだよ?」

「そうだったんですね」

「うん」

二人は暫く黙って眼下の景色を眺めていた。
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