耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
九月初めの土曜日の今日。藤波家に来客があるという。
大学での仕事がひと段落した怜は、後期授業が始まる十月までの間、少しだけ余裕のある生活が送れると言っていた。その証拠に、九月に入ってからの彼は美寧が休みの日に合わせて家にいることが多くなった。
土日は研究室に行くこともあるが、今日は来客があるから家にいる。来客は夕方だと聞いていたので美寧は来客前に帰宅したくて急いでいたのだ。
公園を通り抜けるとほどなく藤波家の屋根が見えてくる。
怜の父母が建てたという彼の家は、昔ながらの平屋造り。外観こそ年期は入っているものの、内装は適度にリフォームしてあって、キッチンや風呂場などの水回りなどに不便はない。流行りのスタイリッシュな外観や開放的な吹き抜けなどはないけれど、新しい畳の香りは落ち着くし今時珍しい猫間障子が面白い。何より美寧は庭に面した縁側をとても気に入っている。
家の門をくぐった瞬間、美寧の目に一人の男性の後ろ姿が飛び込んできた。
その男性は少し離れていても分かるほど背が高い。玄関戸の前にじっと立っているのは、呼び鈴を押して中からの返答を待っているからなのだろう。
門から先に足を踏み込むのを躊躇した足が砂利を踏み、音を立てた。それ反応したように、その男性はこちらに振り向いた。