耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
***


「三十七度六分。少し熱が高いわね」

美寧から体温計を受け取ったユズキは、そう言うと今度は美寧の首筋に両手を当てる。

「リンパの腫れは……なし」

扁桃腺を診てから心音を聴いた後、聴診器をしまいながら彼女は言った。

「軽い夏バテかしらね。持って来てるお薬があるからそれで様子を見てみましょう」

「はい……」

自室にしている仏間に敷かれた布団の上で、美寧はユズキに向かって頷いた。


美寧の言葉を遮ったのは、来客を告げるチャイムの音だった。そのチャイムを鳴らしたのは、怜の友人で美寧の主治医であるユズキ。

「よかったわ。たまたま出かける前に寄ってみて。昨日ナギが来たって聞いたし」

「ナギさん、先生の所にもいらっしゃったのですか?」

「うん、そう。今朝顔を見せに来たわ。転勤前のご挨拶だってね」

「はい。寂しいですね」

「ふふっ、……きっとまたすぐに会えるわ」

そう言って微笑んだユズキの後ろ、少し空いた襖の間から視線を感じて、美寧はそちらに視線をずらした。

「あ、……」

小さな瞳がこちらを見ていた。




< 302 / 353 >

この作品をシェア

pagetop