耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
「もう一度観たいところはありますか?」
イルカショーが終わってからそう訊ねられた美寧は、少し考えてから、「くらげのとこ」と答えた。
怜は美寧の答えにくすりと小さく笑ってからその白い手を取り、美寧が立ち上がるのをエスコートする。
「さっきもしばらくそこから動きませんでしたよね」
「だってすごくきれいなんだもん」
「ミネがクラゲ好きとは意外でしたね」
「うん。自分でもびっくりだよ」
立ち上がってから手を引かれて観覧席を後にしながらそう言った美寧に、怜はまたふふっと微笑んだ。
九月半ばの平日。大学以外の夏休みが終わっているからなのか、水族館は比較的空いていて、ゆったりと見て回ることが出来た。
『一緒に水族館に行く』
自分が反故にしてしまった約束を、怜はずっと気になっていたのだ。夏休みという繁忙期のせいで、なかなか美寧を水族館に連れ出すことが出来なかった。
当の美寧はまったく気にしていないのか、あれから『早く水族館行きたい』とは一度も言わない。
我がままを言わないのは彼女の美徳ではあるけれど、だからと言ってそれに甘えざるを得ない自分が歯がゆいのも事実。
二か月も経って、今日ようやく約束を叶えることが出来た。そのことに安堵する一方で、怜には美寧のことで気になることがあった。
(元気そう、に見えますが……)
クラゲに見とれている美寧の横顔を見る。
薄暗い中でも分かる滑らかな肌。ビー玉みたいな透き通った瞳。背中から腰にかけてふわふわと波打つ髪。
美寧の全てが、水槽の明かりに照らされて青白く光っている。
すぐ隣にいるのに、瞬きをした次の瞬間には、消えてしまいそうな気がして―――
思わず抱きしめたくなる衝動を胸の奥に収めながら、怜は繋いだ手に緩く力を込めた。