耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
***


怜に手を引かれて浜辺をゆっくりと歩く。
西に傾いた陽射し。長く伸びた二つの影も、ゆっくりと(あと)をついてくる。

さっきから怜は何も言わない。水族館を出る時に『少し海辺を散歩してみますか?』と訊いてきただけ。
なんの会話もないけれど、決して居心地は悪くない。繋がれた手のひらから、彼の体温が伝わってくるから。この温もりは彼の優しさだ。


(水族館、楽しかったなぁ)

今朝突然『水族館に行きませんか?』と訊かれた時は、びっくりした。前日まで全然そんなことは言っていなかったのに。

目を見開いて止まっている美寧に、『出かけるのはまだ無理そうですか?美寧の体調が一番です』と怜は付け加えた。その言葉に慌てて『行く!大丈夫!』と返事をしたのだった。


肌を撫でる秋の潮風。引いては返す波の()
大きなものに包まれる安らぎと畏怖が交互に訪れるようで、美寧の思考をどこか別のところへと誘っていく。

(今、こんな風に海を見てるなんて、あの頃の私には想像もつかなかったよね………)

(れいちゃんと一緒なら、いつだってどこだって楽しい……)

アルバイトを休んでいたこの数日間。美寧はずっと考えていた。

怜のことが好きで、このままずっと一緒にいたい。
今度こそきちんと自分の気持ちを伝えたい。祖父とは違う、『一人の男性として好き』なのだと。ちゃんと伝えたい。

けれど同時に考える―――自分のことを怜にきちんと説明しなければいけない、とも。

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