耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
「ミネ」

ぼんやりしていたら、怜から声をかけられた。顔を上げると、いつの間にか出勤準備が整った怜が立っている。

「俺はそろそろ出ますね。美寧もアルバイト、気を付けて」

「うん」

立ち上がって玄関まで見送りに行く。怜を見送ったら洗濯を干したり洗い上がりの食器を戸棚にしまったりする。美寧の生活はずいぶんと藤波家に馴染んでいた。

玄関の上がり框で靴を履く怜の背中をじっと見つめる。
もう夏だというのに、三つ揃えのスーツをきっちりと着た彼が、いつも涼しげなのが不思犠。
そもそも大学の准教授がスーツで行くかどうかすら、美寧は疑問にすら思ったことはない。父親が同じように年中三つ揃えのスーツを着ていたからだ。


靴を履き終えた怜が振り向いた。
上がり框の上に立つ美寧と、たたきの上の怜の目線はほぼ同じになる。いつも見上げてばかりの怜が同じ目線になるこの瞬間が、美寧は好きだった。

「では、行ってきますね」

「いってらっしゃい!」

胸の前で小さく手を振りながら笑顔でそう言った時。
ちゅっと、素早くくちづけられた。

「はぅっ、……」

「いってきます」

微笑んだ怜は、一度だけ美寧の頭を撫でると玄関から出て行った。

「え、あ、い、……いって…らっしゃ、い…」

真っ赤になった美寧は、口元を押さえてしばらくその場から動けなかった。
あまりに長い間固まっていたので、そのあと我に返った彼女は、慌てて洗濯を干しに風呂場へと駆け込んでいった。





【後編 了】

※番外編2 後日追加予定

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