耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
「ただいま。」
ガラガラと音を立てながら玄関の引き戸を開け、中に向かって声をかける。
年季の入った玄関扉は、動かす度に大きな音を立てる。怜は、そろそろ油を注さないとと思いつつ、再度同じ音を立てながら引き戸を閉めた。
この築五十年の一軒家は怜の両親が建てたものだ。住む人が居なくなってしばらく空き家になっていたものを少しずつ手直ししながら住み始めて、もう十年以上経つ。
扉を閉め切ったところで、怜はいつもと様子が違うことに気付いた。
ここ一か月、この引き戸の音を合図に彼女が家の奥から飛び出してくるのが恒例行事のようになっているが、今日はそれがない。
(うたた寝でもしている?それともやっぱり出迎えにも来ないほど怒っているのか?)
飛び出してくるどころか、物音一つしないことを不審に思いながら靴を脱いで廊下を進む。キッチンの戸を引いて覗いてみるがその姿はない。
「ミネ?」
リビングのソファーでいつものようにうたた寝をする姿もない。
(この時間はいつも家にいるはずだが……)
いつもの居るはずの存在がないことに、怜は少し焦る。
まさか出て行ったのか、と思った次の瞬間、奥の方からガタガタと音がした。