耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
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瞼の裏に明るい光を感じ、意識がゆっくりと浮上する。
瞳を閉じていても分かるどこか懐かしい匂いに、ここしばらく忘れていた安らぎを感じる。
覚醒一歩手前の彼女の耳には、小鳥のさえずりが届くが、軽やかなその鳴き声とは真逆に、彼女自身の体は鉛のように重かった。張り付いたように持ち上がらない瞼も、手も足も、すべてが彼女を再び眠りの淵へ誘おうとしている。
(ずっとこのままでいたい……)
美寧の意識が再度眠りに落ちようとしていたその時、額に何かひんやりとしたものが当てられた。
「ぅうっ」
「おっと、すみません。起こしてしまいましたか?」
冷たさに驚いて開けた美寧の瞳に、その男性(ひと)は飛び込んできた。
少し見開かれた瞳は切れ長で、薄い唇とスッと通った鼻筋。それら全てがシャープな輪郭の顔にバランス良く配置されている。
彼はサラサラのダークブラウンの髪を少し垂らしながら、真上から美寧を覗き込んでいた。
(綺麗なひと…)
自分の置かれた状況を考える前に、美寧はのんきに目の前の美に目を奪われていた。
すると、鑑賞の対象がすいっとこちらに指を伸ばしてきた。
長い指先が美寧の額をそっと撫でる。それがひんやりと心地良くて、美寧は瞼をそっと閉じた。
「まだ熱が下がりきっていませんね……」
額に当てられた手が離れる。それを名残惜しく感じた美寧は、閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
離れて行く指先を無意識に目で追うと、その向こうにある景色が視界に入って来る。そこはまったく見知らぬ場所だった。