旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
「こういう時は『すみません』じゃなくて、『ありがとう』と言ってほしい。それに夫が妻の看病をするのも、心配するのも、頼ってほしいと思うのも当然だろ?」

得意げに言う彼に目が丸くなる。

「買い物に行くが、なにか食べたいものはあるか? ……悪いな、本当は俺がなにか作れればいいんだが……」

「いいえ、そんな! ありがとうございます」

一瞬『すみません』と言いそうになり、慌てて言い換えると彼は嬉しそうに表情を崩した。

「ん。……食べたいものはある?」

髪を撫でられながら、甘い声で言われるとむずむずする。

「じゃあえっと……バニラアイスが食べたいです」

幼い頃、熱を出したらお母さんが買ってきてくれたんだよね。甘くて冷たいアイスが美味しかったことを、今でも鮮明に覚えている。

お願いすると俊也さんはクスリと笑った。

「了解。急いで買ってくるから待ってて」

「……はい」

私の返事を聞き、彼は寝室から出ていった。少しして玄関のドアが閉まる音が聞こえてきた。

熱を出したのはいつぶりだろうか。軽い風邪を引いたことはあったけれど、ここまで体調が悪くなるのは久しぶりかも。
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