旦那様の独占欲に火をつけてしまいました～私、契約妻だったはずですが！～

いや、知っていて当然か。きっとお兄ちゃんの耳にも入っているよね、私が『愛人の子』と呼ばれていることが。
もしかしたら今も言われているかもしれない。

何も言えずにいると、お兄ちゃんは悲しげに目を伏せた。

「俺は芽衣にこれ以上、辛く悲しい思いをさせたくない一心だった。だから社交の場に芽衣を何度も連れて行こうとした父さんを必死に止めていたんだ」

そう、だったんだ。じゃあお兄ちゃんはやっぱり知っていたんだね。

初めて出席して以来、お父さんに行こうと言われなくなったのは、お兄ちゃんのおかげだったんだ。

「でもそれは間違っていると俊也に言われたんだ。芽衣はなにも悪いことはしていないのだから、堂々とさせるべきだって」

「俊也さんが……？」

思わず聞き返すと、お兄ちゃんはゆっくり頷いた。

「俺の愛は、本当の愛じゃないって言われた。芽衣のことが大切なら、久我の家に生まれた運命を受け入れ、真っ直ぐ前を向いて歩んでいけるようにさせるべきだと。……あいつが言うと説得力があるな。考え方を変えさせられたよ」

そう言うとお兄ちゃんは、再び私を見つめた。