旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
「芽衣が俺のために手料理を振る舞ってくれるのか?」

「大したものは作れないけど、それでもよければ」

せっかく材料を買い揃えたし、それにお互い明日も仕事なのに、今から行くとなると帰りが遅くなっちゃうもの。

その思いで言ったものの、途端にお兄ちゃんは目をウルウルさせた。

「まさか芽衣の手料理が食べられるなんて……! 俺、明日には死んでもいい」

「大袈裟な……。ちょっと待ってて、すぐ用意するから」

お母さんからもらった紅茶を持ってキッチンへ向かい、さっそく料理に取りかかったものの、カウンター越しにこちらをジーッと見つめるお兄ちゃんが気になる。

「お兄ちゃん、非常にやりづらいんだけど」

「いやいや、芽衣の料理を作る姿なんて貴重だからな。しっかり目に焼きつけておかないと。……ん? ちょっと待て。まさか俊也は毎日芽衣の手料理を食べているのか?」

「……そうだけど」

答えるとお兄ちゃんは怒りを露わにした。

「俊也の分際で生意気な……! 俺なんか今日初めて食べるのに」

そういえば私、家族に手料理を振る舞うのはお兄ちゃんが初めてかもしれない。久我の家には家政婦さんがいて、食事はすべて用意してくれていたから。
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