旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
数日後、商談を終えて会社に戻ると、受付から連絡が入った。俺に来客だと。

「誰だろう」

廊下を突き進みながら心当たりを探るものの、思い当たらない。誰かと会う約束はしていないし、なにより受付から聞いた話では相手は名乗りたくないと言っていたらしい。

一瞬、これまで関係を持った女性だろうかと思ったが、年配の女性と言っていたし……。

気になりながらも応接室に通された相手の元へ向かう。

緊張しながらノックしてドアを開けると、背を向けてソファに座っていた女性は立ち上がった。

そして振り返り俺に深々と頭を下げたのは、姫乃の母親だった。

呆然と立ち尽くす俺におばさんは笑いかけた。

「久しぶりね、俊也君」

「おばさん……どうしてここに」

おばさんの元へ歩み寄ると、再びソファに腰を下ろした。俺もまた向かい合うかたちで座る。

「ごめんなさい、突然窺ってしまい。……俊也君が結婚したと聞いて、居ても立っても居られなくて」

「……それは」

そうだよな、俺から報告せずとも狭い世界だ。いずれ耳に入るはず。
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