旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
「――え」

思いを巡らせていると、突然聞こえてきた声に心臓が飛び跳ねる。

姿勢を戻して周囲をキョロキョロすると、ドアの前にはいつからいたのか、上司の門脇俊也(かどわきしゅんや)部長の姿があった。
「門脇部長? いつからそこに……」

「んー、芽衣ちゃんが『デートのお誘いとか? いや、もしや交際の申し込み?』ってあたりから?」

「……っ!? 最初からじゃないですか!!」

私の声真似をして言う彼に、かあっと顔が熱くなる。

恥ずかしい、独り言を聞かれていたなんて。しかも振られたところを……!

居たたまれない気持ちでいっぱいになっていると、彼は声を上げて笑い出す。

門脇部長は入社当時から本社に配属され、二年前、三十歳の若さで部長に昇進したエリートだ。

身長百八十三センチの長身で、百五十四センチしかない私は、常に彼を見上げている。

整った顔立ちで俳優のよう。それでいて男の色気もある。おまけに仕事もデキるし、部下である私たちへも気さくに声をかけてくれて気遣いもできる。まさにハイスペックな人だと思う。

だけどそんな彼にも、ひとつだけマイナス点がある。

それは『誰にも本気にならない男』だってこと。かっこよく言えば“プレイボーイ”。悪く言えば“ただの遊び人”。
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