旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
でも特別扱いされるわけでもなく、言い寄られたことも、食事に誘われたこともない。門脇部長は、大勢いる部下の中のひとりとして私に接している。

だからこそ、いまだに謎なんだ。どうして門脇部長は私のことを「芽衣ちゃん」と下の名前で呼ぶのかを。

「さて、芽衣ちゃん」

いつの間にかこちらに来ていた彼は、デスクに手をつき、私の顔を覗き込んできた。

「な、なんでしょうか……?」

整った顔が急に目の前にきて、のけ反る。それでもどうにか声を絞り出すと、彼の口からとんでもない言葉が飛び出た。

「プロポーズの答えをもらえるかな?」

「……へ? プロポーズの答え、ですか?」

間抜けな声が出てしまう。

えっと……プロポーズ? 門脇部長はいったいなにを言っているのだろうか。

目を瞬かせる私に、彼は顔をしかめた。

「なに? 話をちゃんと聞いていなかったのか? 今さっき、聞いたばかりだろ? 『俺と結婚する?』って」

人差し指を立てて言われ、ふと少し前のことを思い出す。

そ、そういえば門脇部長、結婚する? って言っていた気が……。
< 5 / 262 >

この作品をシェア

pagetop