旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
やりたいことが見つかるまで、母方の性を名乗って仕事をする。そういう約束で入社したんだよね?

今も身分を偽ったままってことは、門脇部長はまだやりたいことが見つかっていないのだろうか。

ふと疑問に思ったことを尋ねると、門脇部長は首を左右に振った。

「見つかったよ。……やっぱり俺、父さんの後を継ぎたい。だけどまだ俺は半人前だから、今のまま勉強したいんだ」

それを聞いてホッとした。私が知る門脇部長は偽りの彼ではなくてよかったと。

なにより楽しそうに仕事をする姿も、丁寧に、そして時には厳しく指導してくれた情熱も、全部が嘘だったと信じたくなかったから。

「入社して三年後に祖母の家を出て、ひとり暮らしを始めた。……だが、両親とは入社してからもずっと疎遠のまま。でも俺が三十歳を過ぎてから、頻繁に連絡してくるようになったよ。いつまでもひとりでいる俺が心配になったんだろう。よく見合いの話を持ち掛けてくるようになった」

その話を聞き、もしかしたら……と確信を持てずにいた考えが、たしかなものとなった。

「門脇部長が私との結婚を望むのは、私が久我の家の娘だからですよね?」
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