先生は指で頬を掻きながら、ばつが悪そうに手帳を僕に返した。

「いや、すまんかった。行ってくれ」

 僕は一息吐き、頭を軽く下げる。そういえば、さっきの声は誰だろう?

 振り返ると、茶色い髪をワックスで無造作にセットした男子生徒がこちらを見ていた。

「さっきの、君?」
「おお。つうか、すげえな。マジで女の子じゃん」

 屈託の無い笑顔でそう言われると、何だか怒る気が失せる。
 とにかくお礼を言わないと。僕は簡単にお礼を告げた。

「いいって。新入生同士、仲良くしようぜ」

 そう言ってまた笑顔を見せる。人懐っこい人だなぁ。少し圧倒されてしまう。

 式場となる体育館に向かいながら、僕は質問をした。

「ねえ、えっと……」
「俺? 俺は渡辺圭介。圭介でいい。お前は?」
「僕は橋本渉。僕も渉でいいよ」
「わたる、ね。オッケ。んで?」
「何で僕が1年生って分かったの?」
「初々しさ丸出しだったから」

 アバウトな返答。違ったらどうしてたんだろう……。
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