残酷なこの世界は私に愛を教えた
それから5分程した頃だろうか。
二人組の男性客が店のドアを開けた。
こういったカフェで男性二人組は中々に目立つものだ。
「あ、男の人ですよ。先輩達だけじゃなくなりましたね」
石橋さんが少し茶化すように言う。
その男性客は俺達の後ろに座る。
あ、まずいなと思った時には遅かったようだ。
隣で智久の顔色が変わっていた。
「あ、カップルっぽくない? 羨ましい」
「ほんとだ。いいね、和む」
その二人が纏う雰囲気から分かる。
どうやら同性で恋人同士のようだ。
愛珠達は落ち着いたテンションで言葉を交わす。それは何も変わらない、普通の恋人達に向けた発言だった。
僅かに智久の発する空気が尖ったことに気付いたのは愛珠だった。
「中田先輩、どうかしましたか?」
「……悪い、俺ちょっと外居るわ」
俺にやっと聞こえるくらいの声で言うと素早くパンケーキを食べ終え、出ていってしまった。
智久の顔に嫌悪感が表れていたからだろうか。何も言わなくても愛珠達は智久が“彼ら”が苦手なことが分かったようだ。
「ま、まあ……色んな意見があるからね」
静かな俺達の間に愛珠の言葉が沈んでいった。