残酷なこの世界は私に愛を教えた
『変わりましたね、愛珠。きっと先輩が変えたんでしょうけど 』
千島さんの声が響く。
放課後、愛珠を待ちながら話していた時だ。
愛珠の席を眺めながら彼女がそう言った。
『変わった?』
『はい。何て言うか、明るくなりました。声が出るようになったのもありますけど、良く笑うようになった気がします』
千島さんは確かにそう言っていた。
『前は……言葉悪いかもしれないけど、表情が単調で。感情を隠しているのか、鈍いのか分からないんですけど。あっ、入学した頃は落ち着いた子だなっていうくらいでしたよ?』
中学生の時と千島さんとで“落ち着いている”という印象は一致しているようだ。
『……でも、段々暗く? いや、表情が薄くなって。声が出なかった時期は全く、もう表情筋をピクリともさせないくらい無表情でしたね……』
これを聞いた時は正直驚いた。俺の知っている愛珠は明るく笑い、一緒に苦しみを共有してくれる人だったから。
『暗い、っていうのとはまた違うんですよ。まるで何も感じていないような……全てを放棄したような、そんな感じです』
ああ、あの表情だと思った。出会ったばかりの頃、病院で一度だけ見せた、あの表情。