残酷なこの世界は私に愛を教えた
感情の渦
“彼”
◇◇◇
「おい、聞いてんのか? 高瀬!?」
放課後、空き教室に担任の大声が響いていた。
「っ! はい」
昼休みから、自分の集中力が落ちているのが分かる。
あの時の光景が頭から離れない。
「……だからな、俺はもっとお前に頑張って欲しいわけ。今のままじゃ到底T大には……」
――うるさい。
聞き飽きた言葉に、私の中で何かが切れた。
なんかもう、嫌だ。
席を立って出ていこうとする。
「おい、高瀬? まだ話は終わってないぞ!」
「……失礼します」
「おい……」
まだ騒いでいる担任を残して学校を後にした。
帰り道、隼人から連絡が何度も来た。
でも上手く返せる気がしなくて放っていた。
思い返せば、初めてだ。隼人と出会ってから一人で帰ったのは。
隼人が来れないときは必ず中田先輩が来てくれて。
いくらなんでも心配性過ぎるでしょ、と中田先輩が笑ってたな。
「っ……!」
何でこう嫌な事が重なるのか。
家に着くと、予想外の靴があって面食らった。
――どこに居る? 絶対に、母親の所だけは行かれては困る。
焦る一方で、今までの自分には無かった感情に驚く。
これから始まることに嫌気を感じている。
何もやりたくない、何も見たくない。
最近、知りたくない感情ばかり自覚する。
知らなかった感情ばかり。
こうなったのはどうして?
素早くローファーを脱いで自分の部屋へと向かうと、その手前で大きな影が私をつかんだ。