残酷なこの世界は私に愛を教えた
「……なんでこんな時間に……」
「どんな時間に来たって俺の勝手じゃねえか。早くしろよ」
少し楽しんでいるような、邪気が滲み出るような、そんな声で低く言う。
その声に含まれる微妙なその感情が何を意味しているのか全く理解出来ない。
「……向こう行ってて」
いつもの場所へ向かう後ろ姿に嫌悪感を感じて目を逸らした。
「遅えよ」
ドアを開けるとふてぶてしく座っている彼の姿が目に入る。
差し出した酒に目を細めたが、次の瞬間には私へと視線が向かう。
「……あ? お前、ちゃんとした格好して来いよ」
「……」
あれ? 今、私……。口答えしようとしてた。
変だ。そんなこと今まで無かったのに。
「早く」
低く地を這いずるような声に、私は彼を睨んで部屋を出ていく。
彼の言う“ちゃんとした格好”に着替える。
胸元の開いた、あり得ないほど短い丈の派手なピンク色のワンピース。……いや、ドレスと言っても過言ではない。
普段は全くしないような化粧――鮮やかなアイシャドウと真っ赤なリップ、2、3枚を重ねた付けまつげを施す。
何でこんな格好をしなくてはならない?
こんな、下品な格好を。
嫌だ。こんな服、切り刻んでしまいたい。私を写す鏡を、ガラスを全て割ってしまいたい。
猛烈な嫌悪感と、忘れていたその感情に驚く自分が居た。