残酷なこの世界は私に愛を教えた
失声症
◇◇◇
「……ねえ、これって聞いても良いのかな」
届いたパンケーキを食べながら、先輩が遠慮がちに切り出した。
何のことか、想像はつく。
「声、……どう、したの?」
先輩がこの話題に触れて良いのか悩んでるのが伝わってくる。
――どうして。
どうしてそんなに弱気になるのかなあ。
私をこんな所になかば強引に連れてきておいて。
今までの――たったの数時間だが――先輩の様子を見て、強く人を惹き付け、引っ張って行く人だと思っていたから話題に見合わないほど奥手になる先輩に少しだけ違和感を感じる。
「ごめん、嫌だったら話さなくても良いよ。……ただ、俺の声は聞こえてるみたいだから、生まれつきじゃ無いのかな……って」
その優雅な容姿から漂うオーラに似合わない、言い訳じみた弱気な発言は何となく可笑しく思えた。
そして、先輩の洞察力に驚かされる。
“失声症”
「しっせいしょう」
ゆっくりと、一音を噛み締めるように読む先輩。
先輩の様子からは、失声症について知っているのか否か、分からなかった。
ウェブで失声症のページを開き、見せる。
「失声症。極度のストレスや心的外傷などによって、声を発することが出来なくなった状態……」
「いつから?」
“一ヶ月くらい前”
「原因は……ってごめん、悪い癖だ」
聞きすぎてしまう、ということだろうか。
「もし、何か力になれることあったら言って? ……って今日会ったばっかのやつが何言ってんだよって感じなんだけど」
どうしてだろう。先輩、さっきから自分を卑下してばかり。
別に困っていることは無かった。
だから、もう関わることは無いのだろうけれど。
取り敢えず、頭を下げておいた。