残酷なこの世界は私に愛を教えた
こんなことを彼が要求し始めたのは、私が小学校五年の時だった。
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絶対に知られちゃ駄目だ。お母さんだけには、知られちゃいけない。
2、3日に一度、彼はうちを訪れる。
決まって真夜中。
それは幸いだった。母親が寝たあとだったから。
母親、祖父母が住むこの家で、誰の目にもつかない場所を探すのは案外苦労した。
祖父母が建てた家なので広く、部屋には困らなかった。
彼を入れる部屋を母親と祖父母の部屋から最も遠い、角部屋にした。私の部屋の隣だ。
彼がうちを訪れる度にそこへ入れた。
べろべろに酔っている時もあれば、素面の時もあった。
数ヶ月来ない時もあれば、一週間毎日来る日もあった。
何故彼が来ることを母親に隠すようになったかって?
一度だけ、彼と母親が鉢合わせた時があった。
私が幼稚園生の時だ。いや、小学校にあがってからだったろうか。
『酒出せよ!!』
そう怒鳴る彼に母親は心底驚いているようだった。
『そんなこと言われたって……』
『あぁ? 早く!!』
『あなた……本当に孝彦(たかひこ)……?』
『そうだっつってんだろ!!』
この時も彼は酔っていたらしい。
中々動かない母親にイライラしたのか、母親に掴みかかった。
殴りこそしなかったものの、彼が暴れたせいでテーブルに出ていた皿が床に散った。
『いや……!! こんなの、孝彦じゃない! あんたは……偽物よ!!』
『うっせーな、てめえ。ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねえぞ!!』
『いや――――!』