残酷なこの世界は私に愛を教えた
その時の彼と母親のヒステリックな声が私を縛り続けている。
そのあと、彼が来たときは絶対に母親に会わせないようにした。
私だけで何とかしよう。
そう思ったのだ。
最初の頃は彼を部屋へ入れて、寝かせてしまうだけだった。
絶対にうちの人とは会わないで、と頼むと案外あっさりと彼は受け入れた。
そして、そのうち酒を飲み始め、私に酒注ぎをさせるようになった。
『お前さあ、そんな格好じゃ雰囲気出ねえだろうよ。もっと何とかなんねえわけ?』
『何とか?』
『ほらよ。せめてこんな格好してこいよ』
渡された写真には、傷んだ金髪に濃い化粧をして真っ赤なドレスに身を包み肌を露出した女性が写っていた。
なにも知らずにこんな服持ってない、と訴える私に彼は服を持ってくるようになった。
化粧をしろと言われれば慣れないこともした。
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まるでキャバクラだ。
いや、誤解しないで欲しい。その職業の人を否定したい訳じゃない。
その事のおかしさに気付き、嫌だと思ったのは結構遅い。中学生の時だと思う。
なぜなら、それが私にとって普通だったから。
異常だと気付かなければ苦しくもない。
だけど、それに気付いた所で止めることも出来ない。彼が要求し続ける限り、私は応えなければならない。
彼がまた暴れたらどうする? それがまた母親の目に入ったら。
あのヒステリックな声をもう聞きたくなかった。
私が彼の相手をし続けたのは、それだけだった。
だけどもう、何もかも面倒くさい。