残酷なこの世界は私に愛を教えた
その頃、彼はかなりの量の酒を飲み干していた。
実はここ最近、彼はうちに来ていなかった。
なぜ突然来たのかは全く分からないが。
彼の相手をするのに必死で、母親が帰ってくる時間になったことに気付かなかったのは、かなりのミスだった。
「愛珠ー?」
忘れていたその声に冷や汗が背中を伝った。
「……やばい、行かないと……!」
私の声にはかなり焦りが出ていたと思う。
それなのに――いや、そうだからか彼は私の腕を掴んだ。
「ねえ、離して! 行かないといけないからっ」
「いいじゃねえか、別に」
良くないんだよ!
「愛珠?」
しまった、と思った時にはもう遅い。
開いたドアの先で、彼女は目を見開いていた。
「孝彦……? どういうこと?」
呼ばれた彼は訳が分からないという表情をする。
それはそうだ。彼は何も知らない。
母親は私に目線を向ける。
――怒鳴られる――!
思わずそう身構える。
だけど、彼女の口から飛び出してきた言葉は、とても……とても予想外なものだった。
「……へぇー……」
長い間が沈んでいく。
「…………そうやって孝彦に色目使ってた訳?」
は?
この人、正気?