残酷なこの世界は私に愛を教えた
最初、脳がその言葉の意味を理解するのを拒否していた。
もうこれ以上、失望させないで。
そんな感情だった。
……そう、これは初めての感情ではない。
“再び”、そう思ってしまった。
そんなこととはつゆ知らず、彼女は私に近付いて来る。
「何で孝彦がここに居んの?」
決して穏やかではない、殺気だった声。
「ずっとうちに来てるけど?」
何で言っちゃったかな。
数秒後に後悔する。
「……どういうこと!? ちゃんと説明しろよ!」
怒りが爆発したようだった。
正直、なぜこんなに彼女が怒っているのか全く理解できない。
そして理解しようとも思わない。もはや、別の次元にいる理解し得ないものなのだ。私にはそうとしか思えなかった。
大声を素早く聞き付けて祖父母が駆けつけたようだ。
「どうしたんだ? そんなに大きな声を出して」
祖父の顔が覗くと同時にスマホが鳴いた。
私に連絡をしてくる人なんて一人に決まってる。
画面には見慣れた名前――須貝隼人――の文字が並んでいた。
私は慌てて切ろうとする。
ただ、その瞬間母親がまた大声を出したため、手が跳ねて上手く操作も出来ないままスマホはポケットへと滑り込んだ。
それでもコール音が消えたことを幸いにそのまま取り出さなかった。
「こいつが、孝彦に色目使ってたんだよ」
正直もう、うんざりだ。
どうやったらそんな考えに辿り着くのか。頭がおかしいのでは――と思いかけ、自分を戒める。
そんなことを思ってはいけない。人として、間違っている。
でもそんな自制心ももう崩れたも同然だ。全て崩れ落ちて何も考えたくなかった。