残酷なこの世界は私に愛を教えた
「……あっ、おい! 愛珠!?」
彼から逃げるように走った。
ただひたすら走って走って、一人になりたかった。
まあ彼の足には勝てる訳もなく、だけどかなり走ってから腕を掴まれた。
「嫌! 触んないで!」
「っ……」
彼は喉を詰まらせたが、私の手は放さない。
「こんなの、私じゃないっ……」
こんな感情なんて要らなかったのに。
誰かを嫌ったり、何かを嫌だと思う感情なんて要らなかった。
母親への嫌悪感も、担任に対する苛立ちも、麻友子に対する嫉妬心も全部全部嫌だった。
「……どういうことだよ」
「……なんかもう全部ぐちゃぐちゃで分かんない……誰かを嫌う感情なんて欲しくない。そんなものを感じるくらいなら、居なくなりたいっ……」
言い終わった次の瞬間には、私は隼人の匂いに包まれていた。
「そんなの誰でもあるんだよ。無い人なんて無いから。それが普通なんだよ……」
「でも」
「なあ、自分を責めないで。もっと自分を大切にして。頼むからっ……」
隼人の声が僅かに震えていた。
その声に心が抉られる。
それと同時に麻友子との光景が浮かぶ。
その光景が隼人に体重を預けそうになっていた私を引き戻した。
「離して」
彼の胸を押し返すとすんなり離してくれた。