残酷なこの世界は私に愛を教えた
確かにあの後、すぐに店を出ていってしまったことを思い出す。
「あの時に石橋さんは気付いたらしくて」
ああ、だからあの日の帰り道みんな静かだったのか。
流石に私も中田先輩が“彼ら”を苦手としていることは感じた。
だけど思い返せばあの後、麻友子も静かになってしまった。
「中田先輩がそういうの嫌ってるのに気づいて、それで麻友子は……」
「やっぱり自分の感情は普通は受け入れ難いことなんだって気付いたらしい」
きっと麻友子は辛かっただろう。素の行動であるが故により傷付いたと思う。
麻友子が苦しんでいることに気付いてあげられなかったことが悔しい。
でもそれ以上に感じる違和感は。
「何で中田先輩は苦手なの?」
確かに、苦手な人はいると思うしこれはどうしようも無いことだと思う。
でも、流石にあの時の彼は異常だった。
嫌悪しているようにも見えたが、顔色が悪く具合が悪そうだった。
「ああー……あいつさ、男からモテるんだわ。昔から」
思わず「えっ?」と声が出る。
想像しにくい。あんなに派手な格好をしているのに。
「あっ、これこれ。昔のあいつ」
スマホをいじって私に画面を差し出す。
「えっ? 可愛い……これ、ほんとに?」
そこには小柄で大きな目をした可愛らしい少年の姿があった。
言われてみれば、中田先輩の面影が無いことも無い。
「だろ? ……それで去年、あいつ担任に――水永(みずなが)に――襲われかけたんだ」