残酷なこの世界は私に愛を教えた
隼人が駆け付けるのと、救急車が到着するのはほぼ同時だった。
「ねーちゃんっ!」
救急車に運び込まれるりーさんに隼人が叫ぶ。
私達も同乗し、救急車は病院へと急いだ。
◇◇◇
りーさんは、気を失っていたのだった。
特に脳出血等の病気では無かったが、それほど酷い暴力を振るわれたということだった。
傷の手当てが終わってりーさんは病院のベッドに寝かせられた。
家の状況とりーさんの傷の様子から、消防から警察へと連絡が入り、私は状況を説明した。
「誰か、心当たりのある人は?」
「……分かりません……」
私にはそう答えるしか無かった。
一通り手当てや検査が終わり、りーさんはベッドに寝かされている。
『それと……どうやら、お姉さんは妊娠しているようです』
さっきの医師の声が聞こえる。
『はっ? 妊娠……? だって姉は結婚してませんけど……』
隼人は驚いていた。
りーさんの傍らで、彼女の手を握る。
無意識に、空いている右手が左腕に爪を立てる。
「愛珠……? どうした?」
隼人が私の肩を抱く。
爪の先に血が流れてようやく自分が爪を立てていたことに気付いた。
「愛珠、血! 血でてるからっ! もう、何してんだよ?」
彼が右手を左腕から放して握ってくれる。
私に、そんな権利はあるのだろうか。
そんなに優しく手を握ってもらう権利は。