残酷なこの世界は私に愛を教えた
そして、二人をそれぞれ乗せたパトカーが病院の敷地を出ていく。
母親は殺人未遂の現行犯、父親は暴行罪。
隼人と二人でそれを見送る。
悲しみや衝撃は無かった。不謹慎かもしれないが、むしろホッとしている自分がいた。
そして、パトカーが視界から消えてすぐ。
隼人が私を抱き締める。
「愛してる」
たった一言。
たった一言だったのに……私の頬に涙が伝った。
誰かの前で涙を見せたのは、初めてかも知れない。
隼人は泣く私を更に強く強く抱き締める。
「愛してる。…………愛してやる、俺がお前を一生愛してやる」
私は堪えきれなくなって隼人を強く抱き締め返した。
腕の間から、嗚咽が漏れる。
――愛してる
私はきっとずっとその言葉を求めていたんだ。
ずっと、誰かに愛されたかった。
たった一人で良かった。
たった一人で良いから、誰かに “愛してる” とただ抱擁して欲しかった。
その温もりを求めていた。
ただそれだけだったんだ。