残酷なこの世界は私に愛を教えた
◇◇◇
「……はぁ……はぁ、…………チッ」
自分のタイミングの悪さを思い出して苛立つ。
全く、電車とタクシーに目の前で行かれるって何なんだよ?
電話越しに聞いた声が頭の中で響く。
――高瀬さんの保護者の方ですか!?
――今、乗用車に跳ねられて……
――……さくらヶ丘第二病院……
俺の知り合いに高瀬って名前の人は一人しか居ない。
今日出会った、“高瀬愛珠”のみ。
――くそっ、何であの時、家まで送ってやらなかったんだよ!
あの時。
『送るよ』
そう言った俺を車両内へ押し返した高瀬さんは本気で俺を拒んでいた。
遠慮とか、そういうんじゃなくて“ほんとに来ないで”って言われた気がした。
少しくらい嫌な顔されても、無理にでも送っていくべきだった。
どんどん自己嫌悪が増していく。
――そんなことより、今は早く病院に着く方法を考えろ。
電車は次が遅い。タクシーは目の前で発進した。……今は走るしかない。
少し走り続け、大通りに出るとタクシーが何台か見えた。
頼む、行かないでくれ――。
「……はぁ、はぁ……あのっ…………さくらヶ丘、第二……びょう、いんまで……」
ギリギリで追い付き、行き先を告げる。
「はいよ」