残酷なこの世界は私に愛を教えた
「好きだったの、孝彦さんのこと」
「え……?」
ご両親や、弟である隼人がいる前では本心を話せなかったのだろうか。
「孝彦さんとね、お付き合いしてたの。もう2年は経つわね」
「そう、なんですか……」
「ごめんね、あなたのお父さんだなんて知らなかったのよ。子供がいる人だなんて」
普段は見せないりーさんの脆い部分を目の当たりにして、どう接していいのか分からなくなる。
私が黙っていても、彼女は話し続けた。
「その間何回も別れたり復縁したりしてたんだけどね」
夏休みの、荒れたりーさんを思い出す。
あの時も彼と何かあったのだろう。
「好きだった。もう馬鹿みたいにね。付き合い始めるときも私から言ったのよ。……愛珠ちゃんに孝彦さんがどんなことをしていたのか知らないけれど、私の前では優しかった」
「……想像出来ませんね……」
それは正直な感想だった。
あの彼が、誰かに優しくなど出来るのか。
「あははっ、そっかー。そうだよねえ……何かさー……否定したくないんだよね、彼を好きだったこと。殴られた時に一瞬で気持ちなんて冷めたけど、孝彦さんを好きだったことは事実だから……自分を否定したくないの」
それは、私に向けた言葉というよりも、りーさん自身に言い聞かせているような言葉だった。