残酷なこの世界は私に愛を教えた
出口に向かうまでの間、さっきは急いでいて全く見ていなかった病棟内をよく見て歩く。
すると待合室の椅子に、一人の男性が座っているのが見えた。
力なくうなだれているその様子から、俺は直感的に高瀬さんを跳ねたのはこの人だろうと思った。
向こうも直感的に気付いたのだろうか。その男が俺に話しかけてくる。
「あの、女の子は無事ですか!?」
その必死さから、悪い人では無いんだろうなと思った。
「はい。意識はあります。腕の骨にひびが入ったのと、足を捻挫したのと、頭の擦り傷で包帯だらけでしたけど」
「うわー、僕はなんてことを……」
ちょっと意地悪く言うと、頭を抱える彼。
「まあでも、車との接触事故にしてはまだ軽い方なんじゃないですか?」
「でも、怪我させてしまって……」
「ちょっと聞きたいんですけど、事故ってどんな……?」
「……信号は赤だったんです」
俺の質問に、躊躇いがちに話し始めた。