残酷なこの世界は私に愛を教えた
――信号は赤だったんです。
なのに、俺は気付かなくて。スピードはあまり出してませんでした。って言っても、歩行者から見たら十分速いんでしょうけど。
言い訳するなって感じなんですけど、実は徹夜明けで、うとうとしながら運転してました。
……それで、あの子とぶつかってしまって……。
「そう、ですか」
「あの子のお兄さん、ですか?」
「え? いやいや、違います」
「え? ……じゃあ、彼氏さん?」
「違いますよ! 今日初めて会ったんですよ」
「え、じゃあ何であなたの番号を……?」
「もしかして、俺に連絡したの、あんたっすか?」
「いえ、掛けたのは救急車で駆け付けて下さった消防士さんです。意識があったのであの子に連絡先を聞いたら、無言で紙切れを見せられて……。その番号はあなたのだったみたいで」
「……そうだったんすね。…………あ、じゃあ俺はこれで。失礼します」
腑に落ちない所を感じつつ、俺は病院を後にした。