残酷なこの世界は私に愛を教えた
少し沈黙が続いたその時。
――コツン
と擬音が聞こえてきそうな程軽く、右肩に高瀬さんの頭がぶつかった。
見ると、俺の肩に寄りかかって寝ている。
やはり俺も男だ。反射的に心臓が跳ねてしまう。
彼女の寝顔は、とても穏やかだった。
起こそうか迷ったが、あまりにも気持ち良さそうに眠っているので、そのままにして俺は鞄から単語帳を取り出した。
3,40分くらい経った頃だろうか。
病室の方から「高瀬さーん」という看護師さんの声が聞こえる。
やっば。
え、どうしよう。
別に怒られることもしてないし、怒られると決まった訳じゃないのに焦ってしまう。
「あらっ、なんだー。あしゅちゃんこんな所にいたのね」
「すみませんっ」
「いいのいいの。あれ? あしゅちゃん寝てる……?」
心底驚いたように言う看護師さん。
「はい。話してたら寝ちゃって」
「じゃあいいわ。そのままにしておきましょ」
「えっ?」
看護師さんはそのまま立ち去って行った。
それからまた1時間。高瀬さんはまだ寝息を立てている。
爆睡だ。
「っ!」
すると、目が覚めたのか高瀬さんはガバッと体を起こした。
慌てて“すみません!”と言う。
実はまだタメで話すのに慣れていないらしく、たまに敬語が出る。
律儀な性格してるんだろうななんて思う。
「大丈夫だよ。良く寝てたな」
俺が笑いかけると彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。
それから俺は高瀬さんを部屋に戻し、帰ろうと出口に向かった。