残酷なこの世界は私に愛を教えた
お姉さんが部屋から出ていっても、隼人はテーブルに置かれた封筒を見つめるだけで触ろうとしなかった。
「隼人……?」
「あ、あぁ。わり」
我にかえったように隼人は封筒に手を掛けた。
でも、それを開けようとはしない。
「隼人? ……どうしたの……?」
心配になって声を掛ける。
すると、突然隼人が立ち上がった。
「帰ろ。送るから」
「え!? どうしたの、急に」
「なんでもない」
もう、部屋から出て行こうとする。
「ねえ、ちょっと!? どうしたって言うの?」
「お前には関係ないことだよ」
まるで仮面を着けたような、取り繕った表情に、私は何も言えなかった。
それから帰り道、隼人は何も喋らなかった。
ただ事ではない雰囲気に、私も何も言えなかった。
それから、明らかに隼人の様子がおかしくなった。
何も喋らなくなった。
帰りに送ってくれる時は勿論、お昼の時さえもから返事が返ってくる。
“山中”という人と何が有ったのだろう。
普段めったに取り乱さない隼人がこんなにも自分を失うなんて、よほどのことが有ったのだろう。
少しでも力になりたい。
だけど、
“お前には関係ない”
臆病な私は、そう言われるのが怖かった。