残酷なこの世界は私に愛を教えた
◇◇◇
7月30日。
朝10時発の新幹線に乗り、午後6時頃に駅に着いた。
新幹線を降りて、駅から出た風景には見覚えがあった。
どこで見たんだっけ……?
ハッキリとは覚えていない。
微かにのどかな風景が脳裏に浮かんだ。
「行こ……」
さっきから歩いているけど、その足取りはとても曖昧だ。まるで、目的地に向かうか悩んでいるように。
夕御飯を食べたり、隼人が忘れたと言い出した洗面具やらを買いにいったりしてるうちに外は次第に暗くなってくる。
隼人は何を考えているのかな。
朝から笑顔は見ていない。
ねえ、話してよ。
何に怯えているの?
どこに向かうつもりも無いような足取りに着いていくと、不意に高いマンションが見えた。
隼人もそれに気づいたようで、静かに足を止める。
隼人の顔から、この建物が何か関係しているのだとすぐに分かった。
隼人は、道路の向かい側にある公園のブランコに腰かけた。
私は隼人と対面になるようにブランコの前の策に腰かける。
隼人は何も言わない。
だけど、私には苦しんでるように見えて。
――ぎゅっ
「っ、愛珠……」
そっと、隼人の手に自分の手を重ねた。
隼人が何に苦しんでるのかは分からないけれど、少しでも楽になって欲しかった。
「……俺は、人を殺してる」
えっ?
驚いて隼人を見ても、隼人は顔を上げなかった。
「……俺は、あいつを……殺した……」
誰も居ない静かな公園に隼人の小さな声が染み込んでいった。