残酷なこの世界は私に愛を教えた
隣で布団に潜っていた隼人がもぞもぞと動く。
「んー……今、何時……? って、もう7時半!? はやくしないと……」
彼は時計をみて少し声を大きくする。
――今日はどうするの?
聞きたいけど、聞けない。
隼人が思いきったようにこちらを向く。
「今日は、壮介が逝った日なんだ。………壮介の家に、行かないと」
“大丈夫、どこにでも着いていくよ”
「ありがとう」
隼人は、申し訳なさそうな、情けなさそうな顔で笑った。
◇◇◇
隼人の足取りに昨日のような迷いは無い。
それさえも無理をしているのではないかと心配になってしまう。
ホテルを出発する前、隼人が例の封筒を見せてくれた。
中の便箋には、短くこう書かれていた。
『…………今年は壮介の七回忌になります。…………今、あなたに渡したいものがあります。出来れば手渡ししたいと考えておりますので、ぜひ、こちらにお越しください。…………』
隼人が怯える気持ちも分かる。
自分を良く思っていない壮介の親族が集まる時に、その中に入っていかなくてはいけないなんて。
それでも、隼人の背中は大きく見えた。