残酷なこの世界は私に愛を教えた

隼人と壮ちゃんと中田先輩



◇◇◇



壮ちゃんのお墓の前で、手を合わせる隼人。


一旦は収まっていた涙がまた彼の頬を伝った。



私も手を合わせる。




そして、隼人にハンカチを差し出しているときだった。




「よっ」




聞き覚えのある声。



「えっ!?」




振り返れば、見覚えのある赤メッシュ。




中田先輩!?



私が口をパクパクさせている隣で、隼人は冷静に目を細める。



「智久……? 居たのか」



「最初っから居たぜ? お前らは気づかなかったけど」



うっうっ、と泣き真似をする。



「あ、あの、何で中田先輩が……?」



そう言った私を見て先輩が声をあげる。



「えっ、愛珠ちゃん声出るようになったの!?」



最初から居た、ということは私の声が出た瞬間も見ているはずだ。


彼の言う“声が出る”というのは隼人以外の前で、ということだろう。



「はい……自分でもよく分かんないんですけど」



「そっかあ、ま、でも良かった! 俺も愛珠ちゃんの声が聞けて」



楽しそうに言う中田先輩の横で、隼人が不機嫌そうに睨んでいる。




「うわー、お前には聞かせたくなかったわ」



「え、ひどい何でそんなこと言うの。独占欲は醜いぞー?」



「うっせ」



いつも通り、友達なのか何なのかよく分からない会話を終えると、中田先輩は一転して真剣な表情になり、壮ちゃんのお墓に手を合わせる。



どうして中田先輩が壮ちゃんのことを……?



「中田先輩って壮ちゃんのこと知ってるんですか?」



「俺の甥」



「え? お、甥……? じゃあ……」



「あれ、俺のにーちゃん」



壮ちゃんのお父さんを指差して言う。



「ええっ!」




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