残酷なこの世界は私に愛を教えた
その笑顔はちょっと眩しくて無意識に目を反らしてしまった。
先輩はその後も丁度良い間で会話――と言って良いのだろうか――を続けてくれた。
人は間が空きすぎると気まずくなり、早口になって喋り出す。
だけど彼はどちらも引き起こさないのだ。
私はとてつもない居心地の良さを覚えた。
「お、もうすぐだね」
有名なチェーン店のロゴが見えてくると、楽しそうにそう言う。
店内はとても混んでいた。今日は日曜、加えてお昼時だ。
レジ前には長い列ができ、座れる席は無いようだった。隣に立っている先輩の声も聞きにくいほど、賑わっている。
「ちょっと混みすぎだね、どうしよっか。他行く?」
“そうですね”
「っ……」
そう言いたくて口を開き、言葉が出て来ないのを確認する羽目になる。
声が出ないことに慣れたはずなのに、何故かこの人の前だと忘れてしまうらしい。
それを気付かれたくなくて、慌てて首を縦に振った。
「おっけ。すぐそこに違う店あるから」
何も気付かない振りをして歩き出す先輩。
私は先輩の背中を追った。
「あちゃー。ここもすっげえ混んでんなあ」
先輩はこれまた賑わっている店内をガラス越しに覗き込んで頭を抱える。
「んー」
迷っているように下を向いていたが、顔を上げて言う。
「俺、いい穴場の店知ってんだよね。ちょっとここからだと遠いんだけど……。そこ、行く?」
別に予定も無かったし、何処でも良かったから頷く。
「なんかごめんね? 色々連れ回しちゃって」
申し訳なさそうに謝る先輩だが、私は先輩の隣を歩くこの時間を結構気に入っていた。