残酷なこの世界は私に愛を教えた
トイレの出口から隼人が出てくる。
「売店でも行って何か買うか?」
「うん」
隼人は普通に接してくれて居る。
だけど、まるでぴったり隣り合っていた物の間にに通った跡がなかなか埋まらないような、そんな空気を私は感じていた。
多分私が大袈裟なのだということも理解している。
「何かお揃いのものでも買おーぜ」
「うん」
「何か好きなのあったら言えよ?」
「分かった」
あっ、これ可愛い!
手にとって、隼人に見せる。
「これは!?」
「良いけど……これピアスじゃない? 開けてないよね、俺ら」
「あっ、ごめん……」
「じゃあ、これは? あっ、こっちもいい! あっ、でもぬいぐるみでも良いし……」
隣にあったブレスレットやネックレスを指す。
「ちょっ、愛珠。こっちおいで」
彼は私の手を引いて店を出て、建物の陰に連れていく。
「愛珠、どうした? ちょっと落ち着いて。何かあった? 自分が好きなの言いなって言ったけど、手当たり次第言えってことじゃ無いんだよ?」
――ねえ隼人。私を、嫌わないで。
自分の感情に、戸惑う。
「分かんないよ……」
「え?」
「分かんない……」
「愛珠?」
出来るだけ笑顔を作って、普通に振る舞うように努める。
「今までさ、意見聞かれるようなこと無かったからやっぱ分かんないや。ごめん。お揃いの物は隼人が選んで?」
顔を上げてへへっと笑い、隼人の顔を見ずに立ち去ろうとする。
――ギュッ
「っ……はや、と」
隼人は何も言わず、ただ私を抱き締めた。
「はなし……」
頭を撫でられて、何も言えなくなる。
ギュッと胸が苦しくなって、何故か無性に泣きたくなった。
「隼人……」
「何……?」
「嫌わないで。お願い」
「嫌わないよ。大丈夫だよ、愛珠。大丈夫」
ただ隼人の腕の中は温かくて、優しくて、しばらくの間、私は彼に包まれていた。