残酷なこの世界は私に愛を教えた
「あ、荷物、持とうか?」
先輩がすっと手を出す。
いや、でも今日はそんなに重くないし……。
「いいから。これから結構歩くよ? 何気重そうだし、それ」
“今日そんなに重く無い方なんですよ”
とか
“先輩も荷物持ってますし”
とか
“私、力持ちなんで”
とか、色々断る理由はあったのだが、それをわざわざノートに書いて見せる程でも無い気がして、
――それに先輩の好意を踏みにじってしまう気がして私は大人しく鞄を渡した。
こういう場合、普通は断るのだろうか。
それすらも誰かに聞きたくなるくらい男子――正確には、荷物持とうか、と言ってくれるような男子――との接触が無かったのだ。
「おっ、結構重いねこれ。何入ってんの? 教科
書とか?」
昨日帰った時のままなはずだから、教科書がメインだろう。
「へー、偉いね。俺は全部置き勉だから。……今年受験生だからそろそろちゃんとやんなきゃいけないんだけどねー」
ははっと軽く笑う先輩。
重いと言っておきながらひょいっと肩に掛ける。
その後も心地のいいテンポで話す彼についていくと駅が見えてきた。学校への最寄り駅から一駅の所だ。
「こっからまた電車使うね」
二駅だけね、と付け加えた。
10分もしないうちに電車が来て乗り込む。
「お、ラッキー。来るの早い」
ここら辺はど田舎で、30分に一度程度しか電車が来ない。酷い所は1,2時間に一本だ。
車内は珍しい程に空いていた。
と言ってもこの時間帯にこっち方面の電車に乗るのは初めてだから比較のしようが無いのだけれど。