残酷なこの世界は私に愛を教えた
『あっ、じゃあ、家に着いたら電話しろよ?』
駅での別れ際、隼人が言った。
駅で、私はいつも通りに送ってくれようとする隼人を強く押し返した。
『お願いっ、今日は大丈夫だから。じゃあねっ』
勘の良い彼は何か異変に気付いたと思う。
――♪♪♪
言われた通りに電話を掛けた。
でも実際は、言われたからではなく私が掛けたかったのかもしれない。
彼の声を聞いて、安心を得たかった。
『はい』
彼の声に、少しだけ心臓の鼓動が落ち着いたような気がした。
「あっ、隼人? 着いたよ」
『お、良かった良かった』
心地よい沈黙が流れる。
「今日は、ありがとね」
『おう。 ……大丈夫か?』
「うん」
『そっか。なら良いんだけど。もし……』
その時だった。
――バタンッ!
「どこに行ってたの?」
荒々しい声と共に部屋に入ってくる彼女。
私は慌ててスマホを隠す。
その時に通話を切っていなかったことを私は知らなかった。
『おい? 愛珠? 愛珠!?』
電話の向こうで隼人が私の名を呼んでいることも、隼人に私を怒鳴る声が聞こえていることも、隼人が切るまで電話が繋がっていたことも知らなかった。