残酷なこの世界は私に愛を教えた




さて、私はどこに座れば良いのでしょうか?



車内は空いてるんだから、ひとつ空けて座るべき?

それとも、隣に座るべき?


普通はどうするの?



少し迷ってひとつ空けて座った。


ちらっと私を見た先輩が何も言わないことを確認して安心する。



座って落ち着いたからか、先輩は「家はどこら辺なの」とyes/noで答えられない質問をする。


私はスマホのメモ画面に“第三小の辺りです”と打ち込んで見せる。



「んーじゃあこっちとは反対だね」



“先輩は何処なんですか?”



「俺は西中の隣。だから、高瀬さんと同じ方面だね」



こんな美形が同じ電車に乗ってたら気付くだろうに。
今まで私は何を見てたんだろ?


そんなことをぼーっと考えていると、先輩が
「タメでいいよ」と話しかけてくる。



え、タメ?



何のことかわからずに先輩を見ると、


「敬語だと打つの長くなるでしょ?」

と返ってきた。



ああ、そういうことね。

そんな細かいところにまで気を配れるなんて、すごいなあ。


でもやっぱり年上の人とタメで話すのは抵抗が……。何となく失礼な気がしてしまう。



「今、失礼だとか考えてるでしょ。いいから、ほんとに。俺、敬語使われんの苦手なんだよ」



……やっぱり先輩、エスパーですね?


きっと、私が頷き易いように気を使ってくれているんだろう。

私は、押しに負けた振りをして頷いた。




それからカフェに着くまでの間――電車の中と、カフェまで歩いてる間――、誕生日やら家族構成やら、聞かれるままに自分のことを話した。



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