残酷なこの世界は私に愛を教えた
放課後。
――ガラガラ
愛珠の教室、2年1組を覗いても愛珠の姿は無かった。代わりに、一人だけ女子生徒が勉強している。
ドアを開けた音に反応してこちらを見る。
見た顔だ、と思った。
前に愛珠と居る所を見たのだ。恐らく愛珠が今一番仲の良い友達だろう。
「須貝先輩、ですよね? 愛珠は今ちょっと職員室に呼ばれてて居ないんですけど……」
名前が知られていることに驚くと同時に毎日愛珠を送っているからあり得るか、と納得する。
「あ、ほんと? ……じゃあ愛珠が戻ってくるまでここで待ってようかな。あ、勉強の邪魔になる?」
「いえ、全然! むしろ大歓迎です!」
「ははっ、良かった」
一つ聞きたいことがあるんだけど、と言いながら彼女の前の椅子を後ろに向けて座る。
「何ですか?」
「えーっと、……」
机のラベルの名前を見ようと覗き込むと、「千島です。千島美里」と上から声がした。
「ありがとう。千島さんは愛珠とは中学同じ?」
「いえ。高校からですね」
千島さんはもうすっかり勉強する気は無いらしく、おしゃべり体制に入っている。
「そっか……愛珠が声出なくなったのっていつ頃なの?」
「えーっと、1年の3月くらいですかね? 春休み入る前か、入ったちょっと後だったと思います」
「それの原因て何だったか分かる?」
「原因……?」
考え込む様子を見せる彼女。