旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
託された財産と条件
急に脱力した彼女は、俺の腕の中で眠り始めた。


「未彩さん…?」


名前を呼んだが返事はない。ただ、規則正しい寝息が聞こえてくるだけだ。


「あーあ」


嘘だろ…と天井を見上げ、何やってるんだ…と自分に呆れる。


「無理矢理キスするとか、愚か過ぎだろ」


グシャリと前髪を掴み、相手はさっきまで意識を失ってたんだぞ…と呟く。
それから彼女に向き直り、そっと腕を重ねてからじっ…と寝顔を見守った。



「意識がなくなる前、あいつの名前を呼んでたな」


失神する瞬間、同僚の名前を呼んでいた妻。
克っちゃん…と親しそうな呼び方をしていた__。


「俺はまだ『皆藤さん』なのにな」


思わず嫉妬した…と苦笑しつつも、まるで実感無さそうだもんな…と思い返す。


「仕様がないか。ほぼ成り行きで結婚したようなもんだったし」


未彩は俺の言葉に惑わされて、プロポーズに「はい…」と返事をしただけ。
俺はそれを利用して、彼女をこの家へと招き入れた。


「俺のことが特別好きで結婚した訳じゃない。分かってるんだ。そんなこと」


こっちも最初は打算があった…と思い返し、あの夜のことを振り返った___。


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