旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
「仕事で会う時は常に冷静で物静かなイメージでしたから。あんな風に狼狽えるところがあるなんて、まるで想像もしたことなかった」


面白かった…と笑う医師は、私の顔色を確認して頷きを繰り返した。


「…なるほど。彼が慌てるのも無理ないかな。なかなかどうして可愛らしい奥さんだ」


皆藤君も隅に置けない…と何処かで聞いた覚えのある台詞を付け加える。
その言葉に私は眉根を引き寄せてしまい、自分のどこが…と問いたくなった。


「まあ、今日のところは一日しっかり水分を摂って休養して下さい。いきなり体を動かしたりせず、のんびりと体を労るように。部屋には経口補水液を置いて行くように皆藤君にも言っておきますから、それを飲んでお大事に」


言うだけ言うと、聴診器や血圧計を片付けて帰ろうとする。
私は慌てて体を起こしてお礼を言おうかとしたんだけど、ズッシリと鉛のように重い体に引き摺られてしまい、ペタンと背中をベッドへとくっ付けた。


「まだ無理はしない方がいいですよ。昨日の今日ですし、体もフラつくと思うので転倒にも注意をして下さい」


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