旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
流石にそれを記憶の奥に仕舞い込むことは出来難かった。

はっきりとまだ口の中に彼の舌の動きが残っているような感覚も蘇って、急にかぁっと体が熱くなり、肩を竦めて身を捩る。


(ど、どうすればいい?)


どんな顔をして彼と会えばいい?
あんな濃厚なキスをして、平気な顔で彼と会話するなんて、私にはきっと無理。……だと思う。


(絶対に恥ずかしいのが顔に出る。真っ赤になって焦って緊張する!)


皆藤さんの狼狽えどころの比じゃない。
彼に会う前でさえ、こんなにバタバタとして慌てふためいてるのに__。



(もう会わなくてもいいから、そのまま仕事に行っちゃって!)


その方が気が楽だと思うけど、やはりそんな希望が叶う筈もなく……。




「未彩さん?」


コンコン!とノック音がしてビクッと背筋を伸ばした。
はい!と返事をすると、そーっとドアが開き、皆藤さんが隙間から腕を伸ばして入室してくる。


彼の両手にはトレイが乗っかってる。
その上には湯気を立てた朝食と、さっき先生が言ってた経口補水液とが乗っていた。


「食べれるかどうか分からないけど、朝ご飯一応持ってきたよ」


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