旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
だから、私も今思ったことは内緒にしておこうと感じて、ふわっと笑い返し、「お邪魔します」と他人行儀な返事をして足を中に踏み入れた。


広い玄関先に立つと、目の前には大きな板張りの廊下が見え、それは端から端まで目線を走らせてみても軽く二メートル以上はありそうな幅で、普通の家にしては、えらく広めに作られてあるんだな…と妙に思った。



「どうぞ。上がって」


階段状の框の上に新しいスリッパを置く彼は、これが未彩さんの…と指差し、自分は同じ柄の別の色を履く。



(えっ…もしかして、ペア?)


ぽかんとスリッパを見つめ、一人こそばゆく感じた。

これまでペアの経験もなかったから、履くべきかどうするべきか…と迷ってるうちに彼は歩き始め、慌てた私は背中を追うように靴を脱ぎ、スリッパへと履き替えて廊下へと進んだ。



「此処は明治時代に建てられた病院だったんだ」


そう言うと皆藤さんは立ち止まり、木のドアを指差して、此処が待合室で向かい側が診察室…と教えてくれる。


「曽祖父が開業医でね。俺はその家の跡を継がされたって訳」


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