旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
勿論、自分の前には祖父母が住んでいて、その頃に家は一旦改築されて、病院だった場所は普通の部屋へとリフォームされ、当時のままなのは廊下の板とドア、壁くらいかな…と語った。


「ああ、それでこんなに広いんですね」


やたらと広い理由が分かって納得。

そうか、病院か…とこぼす私を振り向くと、彼は廊下の途中で立ち止まり、「そうそう病室もあったから」と付け加えてきた。


「ほら、そこ」


さっと指差すもんだからビクッとして、つい肩が上がる。
振り返ってみると、これまでと同様に飴色(あめいろ)に変わった木製のドアがあり、当時のままの真鍮(しんちゅう)のノブが取り付けられてあった。


「そうそう。手術室もあったかな」

「えっ!?」

「なーんてね」


手術室はない、と微笑む彼は、強張る私の顔を振り返りながら手を差し伸べてくる。



「…手、貸そうか?」


どうも怖がってると思ったみたい。

確かにちょっとビクッとして、オドオドしてしまったけど、どこまでが真実か分からない彼の言葉に疑いも感じていて、怖さと平気さの半々の気持ちを持ちながら、その手を取るべきかどうか…と迷ってしまった。


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